1. 掛分織部平水指 径30.3×高9.2cm
旧にあらず、新にあらず・・・

 私は陶器に関しては門外漢である。したがってこの際、作品のディテールにまで、踏み込むことは避けなければならないだろう。だが、ここ十数年の間、多くの茶室をデザインしてきた。茶室を設計する際に道具に無関心というわけにはいかない。かって千利休が楽茶碗に出会うことによって[待庵]を確信したように新たな茶室と茶の湯を考える場合、それなりの道具をイメージすることになる。

 茶室とはそもそも[ウツ]なる空間である。ウツとは古語で、空、無、空虚の意味をあらわす。つまり、茶室とは常の状態においてはカラッポの空間なのである。空間がカラッポであるといったことは、時と状況によってさまざまな空間に変貌することができる。
 [ウツ]の派生語である[ウツロイ]は日本のコンセプトにおいては重要である。ウツロイとは[移る]、[映す]、[写し]と展開する。移ろう時を室内に写しだし、そうした状況を人の心に定着させる。つまり日本のコンセプトは[変化]を重視したものであった。
 ではどのようにして状況をつくるのかというと季節、儀礼、茶会の意味などを道具によって表すことになる。道具はさまざまに見立てられ、組み合わされ、そして亭主の必要とする[時と場]をつくりだすことになる。
 今日すべてのものは固定化に向かい、自由な自在性を失いつつある。こうした状況を前にしたとき、日本のメソッドである[茶の湯]の今日性が浮かび上がるのである。

 松崎健の焼物に初めて出会ったのは灰被窯変志野の水指であった。書家、矢萩春恵先生の展覧会で茶室[山居]をしつらえた際の出会いだった。
 水指は風炉、釜とならんで茶室のイメージを実現する際、もっとも重要な道具だと私は考えている。なぜなら茶席に一度据えたら終始茶室の風景をつくる大切な道具だからである。織部好みの[破れ袋]もその大胆で破格ながらも侘びた姿が茶室のありかたを決定する。
 松崎の茶碗、茶入れ、花生け、水指などは新たな茶の空間を考える際、久しぶりに出会ったひとつの姿だと私は感じていた。それは旧くもなく、新しくもない、このすれすれのイメージがそう感じさせる。
 一般に道具は桃山を規準としてその評価をはかる。だが、私は[桃山の美]はすでに完成され過ぎているように感じる。それらの道具からは逆算するように空間すらもイメージされてしまう。しかし、松崎の仕事はそうした完成された美、と現代陶芸に観られる抽象、との境界に位置する。それは新旧の境界、東西の境界、日常と非日常との境界である。
 ものとは常に、境界に位置することが重要である。肩衡茶入れ、筒形茶碗、方形に小さな口のついた花生けなどの形は実に単純である。しかしながら、釉薬と灰の被り方で、その表情は一変する。
 私がなぜ松崎健の仕事に共感がもてるかというとその背後に現代デザインの姿を観ることができるからである。

 近年、現代空間はますます単純化の方向に進んでいる。だが、それらが一線を越えるとそこにはある種の違和感が生まれる。つまり、人間の皮膚感覚から遠くなるからだろう。そうした空間と人間とのあいだに位置するものが道具である。
 日本の道具とは常にそこにあるものではなく、役割が終わったら仕舞われるものである。そうした軽やかな空間とものとの関係は、旧くもなく、新しくもないものがのぞましいのである。

内 田 繁
ごあいさつ

銀座の柳もすっかり芽を出し 緑の風がビルの谷間を流れます。
夏が近づき 炉から風炉になるこの季節、松崎健 展「初風炉の茶陶」を企画致しました。
 松崎健氏の焼き物は 故・浜田庄司氏、師・島岡達三氏と受け継がれる「民芸」というDNAをもっていて、形は骨太で 鷺の線刻、刷毛目、象嵌などのオーソドックスなものから、織部、志野、灰紬など 次々と新しい土や焼き方への挑戦が もう一つの魅力になっています。
その彼が 本格的に茶陶を作り出して十年になります。「民芸」と「茶陶」とは元来 両極端に位置し、双方を一つの焼き物で表現することは 大変難しいと思えるのですが、健氏はみごとにやってのけたように思えます。最近の 窯変志野や灰被窯変志野などは 不思議な金属的な光を放ち、茶碗の形も 氏の性格どおり 陰と陽を基本にとても美しいです。
この窯変が出るまでに 独特の形の両焚きの薪窯を 何度も何度も作り直したと聞いております。本誌 前ページ 夜の窯の写真 炎の中から 今回の茶陶が焼きあがりました。
 会場となる銀座一穂堂サロンは二〇〇一年九月にオープンしました。「和」をテーマに 内田繁氏が設計し、サロン奥には現代的な茶室「野恵庵」があります。日本の四季を愛で 日本の文化、日本の技、日本人の感性を、展示という形で表現しています。
 内田氏は世界的に活躍されているインテリアデザイナーで、国内外の大切な空間をプロデュースされているのですが、近年 組立て式の茶室が話題になり、イタリア、ドイツ、アメリカ等の美術館で 展示されています。
今年十月から三ヶ月間 ニューヨーク・メトロポリタンミュージアムでは内田 繁「ORIBE」展が 開催されることになり、松崎 健氏、兄上で木工の松崎 融氏の参加出品が決まり、この度の茶陶のみの作品展は、そのプロローグでもあります。
右ページは若手アーティストのコキン氏が 今回の展覧会によせて茶掛を描いてくださいました。
松崎 融氏の立礼棚や風炉先、盆などの漆の作品も加わり、わくわくするような展覧会になりました。
現代の「茶の湯」を銀座でお楽しみいただけましたら・・・。
心よりお待ち致しております。

銀座一穂堂サロン
青 野 惠 子

一期一会
 
 このたび、銀座一穂堂サロンで松崎 健展「初風炉の茶陶」を開催する運びとになりとても嬉しく思います。
一穂堂さんから個展のお話しを頂いたとき、「茶陶展」と言うことで少し戸惑いましたが、「茶碗」に魅力を感じている事もあって、受けることにしました。私自信、茶陶展は今回が初めてなのでとても楽しみにしています。灰被窯変志野茶碗のなかでも、初夏らしいさわやかなものを中心に展覧いたします。灰被窯変志野とは、私の特殊な両焚きの薪窯で焼かれた物でとても変化の多い志野です。
志野を、裸で窯詰めして焼くために灰を被り、志野の原料である長石と灰が織り成す窯変の世界です。
桃山は価値観が一変しどこか現代に似たような時代に感じます。そんな現代にあって、私の中に革新の精神を取り入れ私ならではの志野を目指しています。

   「粗茶一服さしあげたい」   
 お好きな茶碗で静寂の一時を・・・・・

平成十五年五月吉日

松 崎  健
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